演奏する前に、聴くこと
場所の気候、海、時間、そして文化的な境界に、注意深く耳を澄ませる実践。
八重山で暮らし、音楽に関わるなかで、私たちは「聴く」という行為を少しずつ学び直してきました。聴くことは、音だけに集中することではありません。
風向きや湿度、潮の満ち引き、日が沈む速さ、月が現れるまでの時間に、身体をひらくこと。海が静かな日と荒れる日では、同じ音楽でも、その居場所は変わります。ここでは、自然は音楽の背景ではありません。私たちが演奏を始める前から、海も、風も、鳥も、暮らしの音も、すでに鳴っています。音楽は、その場所に新しい音を置くことではなく、すでにそこにある響きに加わり、応答することなのかもしれません。
場所を聴くことは、その土地の歴史や記憶、そして文化的な境界に耳を澄ませることでもあります。八重山には、祈りや共同体の記憶と深く結びついた唄や場所、物語があります。出会ったものすべてが、記録し、説明し、編曲し、外へ運んでよいものとは限りません。
聴くことは、踏み込む許可を得ることではありません。
ときには、待つこと。尋ねること。触れずに残すこと。そして、沈黙することも、聴くという実践の一部です。私たちは、八重山を代表したり、八重山そのものを表現したりできるとは考えていません。むしろ、この場所とどのような関係を結ぶことができるのかを、
今も学び続けています。
何を受け取ることができるのか。
何を、その場所に残すべきなのか。
何を、外へ運ばないのか。
Just You & The Moonにとって、
ライブは、その関係が音として現れる場所です。
声、楽器、電子音、環境音が風景の上に置かれるのではなく、ある日の海、風、光、そして夕暮れの時間と出会う。そのため、同じ曲を演奏しても、まったく同じ時間は二度と生まれません。
映像は、その時間の一部を残すことができます。
けれども、気温や風の強さ、海までの距離、日が沈んだあとの暗さまで、すべてを記録することはできません。だからこそ、私たちは映像を、その場の体験に代わるものではなく、もう一度耳をひらくための入口として残したいと考えています。
演奏する前に、
聴くこと。
音を外へ運ぶ前に、
それが何に属しているのかを問い直すこと。
聴くことは、作品をつくる前の準備ではありません。
聴くことそのものが、私たちの実践です。