A Note from Tonight
グリーンフラッシュの気配
先日のIsland Echoに、写真家の北島清隆さんが来てくれた。
いつものように撮影をしながら、
少し立ち話をした。
話題はなぜか腰痛だった。
今年のゴールデンウィーク前、
東京での個展を控えたある日、
海でくしゃみをした瞬間にぎっくり腰になり、
そのままヘルニアになってしまったという。
神経ブロックを打ちながら個展へ向かったこと。
歩けなくなることへの恐怖。
そして、60歳という年齢で身体と向き合うこと。
どれも深刻な話のはずなのに、
北島さんはいつもの穏やかな笑顔で話してくれた。
痛みが消えたわけではない。
発症から50日ほど経った今も、
歩くとまだ痛むという。
それでも海へ行く。
それでも写真を撮る。
それでも夕暮れを見に来る。
その姿に、不思議な強さを感じた。
北島さんはサーファーでもある。
長い時間を海と共に過ごしてきた人だ。
その日も、ふと空を見ながら言った。
「今日は少しグリーンフラッシュの気配があったからね。」
グリーンフラッシュ。
日没の最後の一瞬、
太陽の上端が緑色に光る自然現象。
しかし北島さんが語ったのは、
現象そのものではなかった。
まず空気が澄んでいること。
太陽の力が強いこと。
今日のように、
夜7時を過ぎても肌が焼けるほどの陽射しが残っていること。
そして水平線の先に雲がないこと。
ただ最後だけは運だという。
どれだけ条件が揃っても、
遠くの雲ひとつで見えなくなる。
だから待つしかない。
自然は約束してくれない。
それでも人は空を見る。
もしかしたら見えるかもしれないから。
私はその話を聞きながら、
Island Echoも少し似ていると思った。
何かを作ろうとしているようでいて、
実際には条件を整えているだけなのかもしれない。
月が昇ること。
風が吹くこと。
波が寄せること。
人がそこに座ること。
その先に何が起きるかは、
結局のところ、自然の領域にある。
グリーンフラッシュも同じだ。
見ようとして見られるものではない。
ただ、
その気配を感じられる人はいる。
北島さんは撮影の合間に、
また海の方へ歩いていった。
私は自然治癒力の話をして、
愛用している漢方のことを伝えた。
「どこで買えるの?」
「はと薬局です。」
「ああ、仲良しだから行ってみます。」
そう言って笑いながら、
またカメラを持って浜辺へ戻っていった。
痛みを抱えながらも海へ向かう人の背中は、
どこか静かだった。
グリーンフラッシュは見えなかったかもしれない。
けれどその日、
私は確かにその気配のようなものを見た気がした。